調査研究結果

産業医活動による調査報告(2005年度)

2006年6月

高知産業保健推進センター

はじめに

高知県における産業医活動の実態把握を目的として、認定産業医及び衛生管理者を対象にアンケート調査を行った。なお、本調査は2005年度に行われたものであり、本年度集計を行い、若干の考察を試みた。

調査対象及び方法

調査対象者は、高知産業保健推進センター(以下、推進センター)が定期的に発行している情報誌を送付している認定産業医241名及び764事業場の衛生管理者または衛生管理の担当者(以下、衛生管理者等)であり、情報誌送付時に調査票を同封し、FAXによる回答を依頼した。
調査は2005年9月から2006年1月にかけて実施し、認定産業医からは64名(26.6%)、衛生管理者からは284名(37.1%)の回答を得た。
なお、認定産業医については、“現在産業医としての活動なし”とする回答がみられたため、これらは、産業医活動に関する項目では集計対象から除いた。
衛生管理者等の業種別労働者数別回答数は、資料1のとおりであった。

資料1 業種別労働者数別回答数<衛生管理者等調査>

労働者数(人) -49 50-99 100-299 300-999 1,000-
建設業 11 12 9 32 11.3
製造業 8 32 15 4 59 20.8
運輸・通信業 1 12 6 1 20 7.0
卸売・小売業 15 22 11 48 16.9
飲食業 3 1 3 7 2.5
金融・保険業 3 7 1 2 1 14 4.9
不動産業 0 0.0
修理等サービス業 2 6 7 15 5.3
電気・ガス・水道業 1 2 3 1.1
鉱業 0 0.0
行政機関等 4 3 7 2.5
医療・福祉 1 14 29 3 47 16.5
教育 2 1 5 8 2.8
その他 3 8 8 3 1 23 8.1
無記入 1 1 0.4
54 115 100 13 2 284 100.0
19.0 40.5 35.2 4.6 0.7 100.0

調査結果

認定産業医に対する調査

回答産業医の属性及び認定産業医資格取得時期など

回答を得た認定産業医の性・年齢、本務の就業形態及び産業医としての経験年数、認定産業医資格の取得方法とその時期について、表1に示した。
年齢は40-60歳代が85%を占めており、72%が開業医であった。産業医の経験は5-9年が28%、10-19年が41%と多く、資格の認定は2名を除いて日本医師会の認定講習によって得ており、6年以上前の取得が80%を占めていた。
また、「現在、産業医としての活動なし」が9名(14.1%)あった。その属性等は、開業が6名、医療機関勤務が3名であり、6年以上前の資格取得が6名と多く、産業医としての経験年数は5年未満の回答が5名で多かった。

表1 回答認定産業医の属性等

回答数(%) 64 100 回答数(%) 64 100
性別 59 92.2 業医の経験年数(年) -5 10 15.6
2 3.1 5-9 18 28.1
NA 3 4.7 10-19 26 40.6
年齢別(歳) -29 1 1.6 20- 7 10.9
30- 7 10.9 NA 3 4.7
40- 19 29.7 認定産業医資格の取得方法と時期 認定講習 62 96.9
50- 19 29.7 2年前以内 1 1.6
60- 17 26.6 3-5年前 5 7.8
70- 1 1.6 6年以上前 51 79.7
NA 1 1.6 NA 5 7.8
本務の就業形態 開業 46 71.9 研修会で 1 1.6
医療機関 15 23.4 大学教員等 1 1.6
健診機関 1 1.6 産業医としての
勤務形態
専属 6 9.4
民間保健 1 1.6 嘱託・個人 34 53.1
行政 1 1.6 嘱託・機関 16 25
活動なし 9 14.1

産業医としての活動

産業医としての勤務形態、担当事業所数、活動時間、活動形態及び収入について、表2に示した。担当事業場数は半数が1事業場であり、3事業場以下が90%を占めた。産業医としての活動頻度は、月1回以上は31%であり、62%が不定期で年4回以下であった。また、嘱託産業医としての1ヶ月平均収入は、5万円未満が38%(専属産業医等の「該当なし」を除くと64%)を占めていた。

表2 産業医としての活動状況

回答数(%) 55 100 回答数(%) 55 100
担当事業乗数 1 30 54.5 活動形態(頻度・回) 定期・週1.2 5 9.1
2 11 20 定期・月2-4 12 21.8
3 9 16.4 不定期(-年4) 34 61.8
4 2 3.6 その他 4 7.3
5- 3 5.5 NA 8 14.5
1ヶ月あたりの総産業医活動時間(時間) -1 13 20.3 嘱託産業医
としての報酬
(1ヶ月平均、万円)
-5 21 38.2
1 11 17.2 5-10 7 12.7
2 10 15.6 10-20 3 5.5
3、4 4 6.3 NA 2 3.6
5 3 4.7 該当なし 6 10.9
6- 7 10.9
NA 7 10.9

衛生管理者等に対する調査

産業医の選任状況

労働者数別の産業医の選任状況については、表3、図1のように、回答事業場中80%が産業医を選任していた。労働者数50人以上の事業場では、回答230事業場中27(11.7%、無記入1を含む)が産業医を選任していない。そのうち6事業場は、認定産業医以外の医師に健康管理等の業務を委嘱していた。
非選任の事業場を労働者数別にみると、50-99人で14%、100-299人で5%であり、労働者数が少ない事業場に多かった。一方、今回の回答事業場では、50人未満でも50%(27/54事業場)が産業医を選任していた。
産業医の所属を「専属」、「嘱託(開業)」、「嘱託(病院)」別に回答を求めた結果は、それぞれ全回答中の19%、31%及び31%であり、「嘱託」が2/3近くを占めた。労働者数別には特定の傾向を認めなかった。なお、「専属」産業医をもつ事業場は、業種別には医療福祉機関が過半数(29/55)を占めたが、他の業種でも少数ではあるが、ほとんどで回答があった。

表3・図1 労働者数別産業医選任状況

※その他:非認定産業医に健康管理等を委嘱
労働者数 専属産業医 嘱託
(開業医)
嘱託
(病院等)
非選任 その他※ 無記入
-49 1 10 16 25 2 54
50-99 19 39 36 17 3 1 115
100-299 31 34 29 5 1 100
300-999 4 3 5 12
1,000人- 2 1 3
55 88 87 47 6 1 284
(19.4) (31) (30.6) (16.5) (2.1) (0.4)

労働者数別産業医選任状況

産業医の活動状況

産業医の活動状況は、頻度及び1回あたりの時間について回答を求めた。活動頻度は、「定期・週」(週単位で定期的)、「定期・月」(月単位で定期的)及び「不定期」(年間の回数で回答)に分類した。

活動頻度

産業医を選任している230事業場の活動頻度(表4)は、「定期・週」3%、「定期・月」20%、「不定期」60%であった。(「その他・無記入」が18%) 回数は、「定期・月」では「1回」が多く82%(37/45)を占めた。「不定期」では「年5回以上」や「年3・4回」もあるものの、「無記入」を除く104事業場の82%は「1回」か「2回」であった。
産業医が選任されている230事業場で、職場巡視の規定や、衛生委員会への出席などから一つの目安と考えられる「月1回」以上のものは23%ということになる。「年3回以上」が8%、「年1回か2回」が37%であった。(22%は回数が無記入かその他の回答)
これらの活動頻度は、図2のように産業医の所属別には差を認めず、回数についても所属別には差が認められなかった。

表4 産業医の活動頻度

*「その他・無記入」42(18.3%) %:産業医を選任している230事業場に対する比率
回数 回答数(%) 回数 回答数(%)
定期・週 1・2回 7 ( 3.0) 不定期 年5回以上 7 ( 3.0)
定期・月 2回以上 7 ( 3.0) 3・4回 12 ( 5.2)
1回 37 (16.1) 2回 41 (17.8)
無記入 1 ( 0.4) 1回 44 (19.1)
小計 45 (19.6) 無記入 33 (14.3)
小計 137 (59.6)

図2 産業医の所属別活動頻度

産業医の所属別活動頻度

活動時間

1回あたりの活動時間を1時間未満ないし1時間前後(以下「1時間」)、2時間前後(以下「2時間」)及び「3時間以上」に分けて集計したところ、産業医選任230事業場のそれぞれ49.6%、10.9%、4.8%を占め(無記入等が34.8%)であった。1時間程度ないしそれ以下が、産業医選任事業場の50%、無記入等を除く回答の76%を占めている。
これを活動頻度別にみた結果を図3に示した。「週1・2回」及び「月2回以上」の14事業場では「2時間」あるいは「3時間以上」が57%を占めるが、その他では、「年3・4回」を除いて70-85%が「1時間」であった。「不定期」の各群で「3時間以上」も少数みられるものの、全体として回数が少ない場合に1回あたりの時間が長いという傾向は見られなかった。

図3 産業医の活動頻度別活動時間

産業医の活動頻度別活動時間

産業医活動への期待

衛生管理者等の産業医活動への期待について、活動内容の選択肢ごとに回答を求めた結果を表5に示した。
最も多く選択されたのは「健診における有所見者への指導」55%であり、「就業上の措置の具申」41%、「健康診断の実施」36%が多く、以下「健康相談」、「健康教育」、「THP」など健康管理に関する諸項目が20%を超えて多かった。その一方で「衛生委員会」、「職場巡視」など労働安全衛生法で職務とされている事項でも20%未満のものがあった。
図4-6に、これらを労働者数、選任状況別及び活動状況別にみた結果を示した。なお、「嘱託(開業医)」と「嘱託(病院等)」は合計して「嘱託」とした。

表5 産業医の関与への期待事項*OSHMS:労働安全衛生マネジメントシステム

項目 % 項目 % 項目 %
有所見者の保健指導 55.3 THPの助言指導 21.5 快適職場の助言 12.3
就業上措置の具申 41.2 衛生委員会への助言 19.7 作業環境の評価 10.6
健康診断の実施 36.3 メンタルヘルス対策 18 過重労働対策 7.7
健康相談の実施 28.5 衛生教育の実施 17.3 OSHMS助言 3.5
健康教育の実施 21.5 職場巡視の実施 15.8 無記入 17.3

労働者数別

労働者数別状況(図4)では、産業医の選任義務がない50人未満では「無記入」が多く、各項目に共通して選択率が低かった。50-99人と100人以上の両群では、選択率の高い健康管理に関する項目では差がない一方で、「衛生委員会における助言」や「職場巡視」などで100人以上の群に選択率が高かった。

図4 労働者数別・産業医の関与への期待

労働者数別・産業医の関与への期待

産業医の選任状況別

産業医の選任状況別(図5)には、「専属」の事業場で、「嘱託」「非選任等」に比べて各事項での関与への期待が高率であった。とくに、「就業上の措置の具申」45.5%、「衛生委員会への助言」41.8%、「職場巡視」30.9%などへの期待が高いことが注目される。
一方、嘱託産業医の事業場では、関与への期待は「健康診断の実施」38.3%を除いて「産業医非選任」事業場の回答と差がみられなかった。また、「非選任等」では75.5%が「無記入」であった。

図5 産業医の選任状況別・産業医の関与への期待

産業医の選任状況別・産業医の関与への期待

活動状況別

活動頻度別には、「定期・週」と「定期・月」をまとめた「定期」と「不定期」について集計した。結果は図6のように、健康管理に関する「有所見者の指導」「就業上措置の具申」「健康相談」などは両群の差が少ないが、他の項目では「定期」が高率であり、とくに「衛生委員会への助言」や「職場巡視」などで差が大きかった。この状況は、「嘱託」のみにおいても同様であった。

産業医活動への期待のまとめ

「産業医の関与に対する期待」について、労働者数50人未満及び非選任の事業場で「無記入」が多かった。これらでは、産業医活動そのものに対する関心が薄いことを反映したものと考える。しかし、産業医が選任されている事業場でも、「嘱託」では「健康診断の実施」での関与に対する期待のみが高率で、他の項目では「非選任等」と差がなかった。嘱託産業医の選任が多い実態を考えると、産業医の活動が多くの職場に浸透していないことになる。その要因を明らかにし、さらに、時間的にも制約が大きい中で重点的に産業医活動が果たすべき役割についての検討が必要であろう。
産業医の関与を期待する活動としては、健康管理に関するものが多かった。その他の職務では、「衛生委員会」や「職場巡視」を中心に一定の期待が認められ、「専属」や活動が月1回以上の事業場で多かった。「衛生委員会」や「職場巡視」では月1回という頻度が示されていることも要因の一つとも考えられるが、「衛生委員会」や「職場巡視」は健康管理以外の活動を考える上で重要な職務といえるかもしれない。

図6 産業医の活動状況別・産業医の関与への期待

産業医の活動状況別・産業医の関与への期待

まとめ

産業医活動について、認定産業医及び衛生管理者等に対するアンケート調査を行い、それぞれ26.6%、37.1%の回答を得た。産業医活動に関する主な結果は、以下のとおりである。

産業医からの回答

産業医の担当事業場数は「3事業場以下」が90%を占めており、活動頻度は「月1回以上」が31%で、62%は「不定期」で「年4回以下」であった。

衛生管理者等からの回答

  1. 労働者数50人以上のうち12%の事業場が産業医を選任していなかった。
  2. 産業医の所属別には、「専属」19%、「嘱託(開業)」31%、「嘱託(病院)」31%であった。
  3. 産業医を選任している230事業場の産業医の活動頻度は、「月1回」以上のものは23%、「年単位で3回以上」が8%、「年1回か2回」が37%であった。(33%は回数が無記入かその他の回答)
  4. 産業医の1回あたりの活動時間は、1時間前後か未満が49%(無記入等を除くと76%)を占めていた。
  5. 衛生管理者等が産業医の関与を期待する活動としては、以下の結果が得られた。
    • 「健康診断の実施」及び「就業上の措置の意見具申」「健康相談」など健康管理に関する事項が多くあげられた。
    • 事業場規模別には、労働者数の多い事業場で「衛生委員会への助言」「職場巡視」が高率であった。
    • 専属産業医では健康管理関係以外にも「職場巡視」「衛生委員会への助言」などがあげられたが、嘱託産業医では「健康診断の実施」を除いて著しく低率であった。
    • 活動状況別には、週単位又は月単位での「定期」が健康管理関係以外の項目で「不定期」より高率であり、とくに「職場巡視」や「衛生委員会での助言」でその差が大きかった。

本調査では、職場の産業保健活動の中心的役割を有する産業医について、活動状況にかなりの差がみられること、また、衛生管理者等の産業医への期待が、産業医の活動状況等と関連している可能性が示唆された。回収率が低く、必ずしも実態を反映していない可能性があり、さらに実態把握につとめる必要があるが、貴重な資料として当センターの活動に活用していきたい。

ご協力いただいた方々に心からのお礼を申し上げます。

以上

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