調査研究結果

病院の滅菌作業におけるエチレンオキサイド暴露のモニタリングに関する研究

2003年3月

主任研究者 高知産業保健推進センター所長   鈴木秀吉
共同研究者 高知産業保健推進センター相談員 甲田茂樹
高知産業保健推進センター相談員 中西淳一
高知産業保健推進センター相談員 門田義彦

はじめに

エチレンオキサイドは特定化学物質等障害予防規則で第2類物質、かつ、特定管理物質として規制されている化学物質である。エチレンオキサイドはエチレングリコール、エタノールアミン、アクリルニトリルなどの有機合成原料、界面活性剤、殺虫剤、殺菌剤、顔料、滅菌ガスなどとして様々な産業現場で用いられている。エチレンオキサイドは、従来より引火性、爆発性があるために、その取扱いや保管などについて留意するよう指導されてきた。このような中、エチレンオキサイドの毒性の見直しが行われ、WHOの研究機関であるIARC(国際癌研究機構)は発ガン性を認める第1群(人間に対して発ガン性がある物質)とした。日本産業衛生学会も発ガン性のある第1群とした。さらに、慢性影響としての発ガン性のみならず、急性の皮膚粘膜の刺激作用による炎症や悪心・吐き、また高濃度では致死的麻酔作用などが警告されてきた。平成13年厚生労働省はエチレンオキサイドの毒性を鑑み、健康障害の防止対策を徹底するように再度指導を行い、とりわけ、医療機関等での滅菌作業における予防措置の徹底を指示した。
本研究では医療機関等における医療器具類の殺菌作業に注目し、滅菌作業遂行に伴うエチレンオキサイド暴露の状況について環境測定に基づいた評価を行い、滅菌作業時における高濃度暴露の予防対策を検討することを目的とした。

方法

対象

調査に同意し、協力がえられた3病院とリネン類の滅菌作業を行っている2事業所である。3病院はそれぞれ週に1~2回程度の滅菌作業を実施している。リネン類の滅菌作業を行っている2事業所は外部の事業所から依頼され、布団やシーツなどのリネン類をまとめて滅菌している専門の事業所である。
この外部の事業所は医療機関だけでなく、ホテルや旅館なども含まれるため、通常は洗濯するだけの業務であるが、エチレンオキサイド滅菌が必要な場合があり、週に1~2回は大型機器によって滅菌作業をおこなっている。

エチレンオキサイド等環境測定方法

  • 測定器具
    条件により北川式ガス検知管、パッシブ型個人暴露サンプラー(3M、エチレンオキサイドモニター)及びポータブルVOCリアルタイムモニタリング装置(RAEシステムズ)の3種を使い分けた。
  • 測定の場所
    検知管では作業場所におけるB測定に近い条件で測定した。パッシブ型サンプラーは勤務時間中及び滅菌終了後の取り出し作業従事の短時間について測定した。ポータブルVOCモニターは作業者の呼吸域及び被滅菌物近くで20秒毎のサンプリングレートで連続的に測定した。

結果

医療現場におけるエチレンオキサイド暴露

  • A病院
    従事する1名の15~513分の計5回それぞれの平均暴露濃度は0.007~0.423ppmの範囲であった。
  • B病院
    従事する3名の6~440分の3回それぞれの平均暴露濃度は0.001~0.065ppmの範囲であった。
  • C病院
    従事する1名の10~455分の計5回それぞれの平均暴露濃度は0.000~0.012ppmの範囲であった。

リネン類の滅菌作業場におけるエチレンオキサイド暴露

  • D事業所
    従事する5名の15~480分の延べ9回それぞれの平均暴露濃度は0.000~0.903ppmの範囲であった。
  • E事業所
    従事する3名の10~477分の延べ5回それぞれの平均暴露濃度は0.000~0.007ppmであった。

滅菌終了後のエアレーション完了後等における被滅菌物取り出しの際のエチレンオキサイド濃度

  • エアレーション完了直後の取り出し作業を行う場合
    短時間ではあるが200ppm程度の濃度に達する場合がある。
  • エアレーション完了後に一昼夜放置してから取り出し作業を行う場合
    短時間ではあるが数ppmの濃度に達する場合がある。
  • その他の条件
    ボンベ保管庫におけるリーク(ガス漏れ)の可能性やエアレーション後であっても大量のリネン類が重なっている条件等ではエチレンオキサイドが残っている場合のあることがわかった。

考察

  1. 今回の調査においては厚生労働省の提案している管理濃度や日本産業衛生学会が提案している許容濃度1ppmを超えている事例はなかった。
  2. 滅菌完了後のエアーレーション処理を行っても装置の扉を開けて中のものを取り出す際に瞬間的ではあるが高濃度ガスに暴露される可能性のあることがわかった。
  3. 残留濃度が高くなる条件としては長い筒状の物やシーツや布団のような素材的にガスが残りやすいと考えられる物であった。
  4. 滅菌装置の設置条件や配管条件やメインテナンス条件によってはガスがリークして狭い場所を汚染する可能性のあることがわかった。

まとめ

1日当たり8時間暴露を想定した平均暴露許容濃度を超えた事例はなかったが、エアーレーション後に高濃度ガスに暴露される可能性のあることがわかった。作業者はこの点に留意し、保護具類の適切な使用と機器の操作手順に関する安全マニュアルに従って作業することが必要である。

以上

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