調査研究結果

地域・職域連携保健活動における産業保健推進センターの役割に関する実践的研究

2003年3月

主任研究者 高知産業保健推進センター所長  鈴木秀吉
共同研究者 高知産業保健推進センター相談員 甲田茂樹

はじめに

一般にこれまで地域と職域に縦割りとなっていた保健活動を最近では人の一生を通じて連続する保健活動・保健サービスへと変革する流れが次第に意識されるようになった。特に厚生省と労働省が厚生労働省として統合されされたことによってその傾向は強まったといえる。高知県においては早くも平成2年に勤労者健康づくり推進委員会が発足させ、学識経験者、産業医、事業主団体、労働組合組織、市町村、労働行政等が一緒になって勤労者の健康づくりを推進するための方策を協議し始めた。これをうけて県内の保健所の中には牽引役となって地域に勤労者健康づくり推進協議会を発足させ、現在まで活動を続けているところがある。また、県行政は数年来、保健所職員を核としてこれまで産業保健サービスを受けられないでいた中小企業の事業所を対象にした産業保健サービス活動を展開する意図を持って職域保健に関する研修会を重ねてきている。
このような状況の中で高知産業保健推進センターが地域保健と職域保健の連携と進展を図るための調整役としていかなることができるか、あるいは地域保健と職域保健の連携のためには何をなすべきかを、実践的に検討する。

方法

最初の計画では4地域の産業保健センター、5地域の保健所、5地域の代表的自治体、労働基準協会連合会、商工連合会、商工会議所、労働組合、学識経験者等をメンバーとする(仮称)産業保健推進連絡協議会を立ち上げる構想を持っていたが、先進的に取り組んでいる須崎保健所地域の勤労者健康づくり推進協議会の状況、また、県行政がイニシアチブを持って始めた安芸保健所地域におけるモデル事業の実情、また、保健所が自主的に取り組み始めた土佐山田(高知東保健所)地域の進み具合から判断すると、現時点では連絡協議会を立ち上げても実効性のある事業展開を図ることはきわめて困難であると考えられるので、協議会による検討は中止し、上記の県内のこれまでの進行状況を分析することにより、今後の事業展開の方向性を明らかにすることとした。

結果

高知県における地域保健と職域保健の連携に関する動きは特に高知県行政とこれに関連する保健所行政および保健所と連携した一部の自治体に限定されていることが明らかであった。また、職域保健の当事者である商工会に所属する企業経営者との連携が難しいことや、また、企業経営者を通じた勤労者との意志疎通が円滑に行われていないことなどが明らかであった。これらに関して以下の資料を入手した。

  • 勤労者健康づくり関連事業(平成2年~9年度)のこれまでの経過図
    鈴木順一郎(安芸保健所長、前・高幡保健所長・須崎保健所長・健康福祉部健康対策課長等)
  • 勤労者健康づくり推進について-高知県勤労者健康づくり推進委員会報告(提言)-
    勤労者健康づくり推進委員会:平成3年(1991)
  • 第1回高知県勤労者健康づくり推進協議会
    事務局(高知県健康福祉部健康対策課):平成10年(1998)
  • 第1回勤労者健康づくり高岡地区推進協議会議事録(要旨)
    須崎保健所:平成6年(1994)
  • 平成14年度第1回高幡地区勤労者健康づく推進協議会
    高幡保健所:平成14年(2002)
  • 株式会社あさの四万十工場環境診断サービス事業報告
    高幡保健所:平成13年(2001)
  • 平成13年度働く人の健康づくり支援研修(前期)実施要項および事例報告書等
    高知県:平成13年(2001)
  • 中央東保健所から高知産業保健推進センターへ依頼のFAX
    :平成13年(2001)
  • 職域保健と地域保健の連携に関する調査(働く人の健康づくりに関する調査)結果について
    中央東保健所:平成14年(2002)
  • 働く人の健康を共に考える研修会
    中央東保健所:平成15年(2003)
  • 平成13年度生活習慣病調査委託費 地域・職域健康管理総合化モデル事業「生涯を通じた健康づくり支援モデル事業報告書」
    高知県:平成14年(2002)
  • 平成14年度厚生労働省生活習慣病調査依託費 地域・職域健康管理総合化モデル事業、「生涯を通じた健康づくり支援モデル事業報告書」
    高知県:平成15年(2003)

以上の資料と関係団体や関係者との情報交換から以下ことがわかった。

  1. 県行政の大きな動きとしては職域保健と職域保健の連携の必要性を強調したいくつかの事業展開が図られている。
  2. 職域の健康診断データと市町村の健康診断データの連続的活用を図るための技術的課題とプライバシーの保護の課題について一地域を対象にして高知県県行政がモデル事業を実施した。
  3. 高知県行政として地域住民と職域の勤労者を共通の対象として健康測定と健康教育について一地域を対象にしてモデル事業を実施した。
  4. ある保健所管内では長年にわたって勤労者健康づくり推進協議会が活用され、保健所が環境評価事業により積極的に協力した事業所に対してその成果を還元した。
  5. 保健所職員の職域保健研修の中で環境評価を中心にした事例研究を実施し、全保健所が報告書をまとめ、各該当事業所に対してその成果を還元した。
  6. ある第2の保健所が商工会等を通じて職域保健に取り組み始めた。
  7. 高知県行政は独自に平成15年度に市町村の職域保健と地域保健の連携事業への取り組みに対して一定の枠内での助成金制度を始めた。

考察とまとめ

勤労者の健康管理・健康づくりを目指した産業保健活動の一層の活性化を図るためには地域保健と職域保健の連携を強めることが必要である。実際には保健所を含む県行政組織と市町村自治体、産業保健関係諸団体、医師会、歯科医師会、産業看護組織団体等、そして事業者団体、労働組合、学識経験者等を含む各組織の連携である。厚生労働省による直接・間接の支援等も必要である。連携で最も肝要なことは産業保健活動を必要とする当事者であり、勤労者をかかえる事業主・経営者との連携・協力が不可欠であるということである。
すなわち実効ある情報交換と働き掛けを関係団体、特に事業主・経営者団体に対して積極的に行うことが必要であると結論される。産業保健推進センターは地域産業保健センターと連携してこの課題に取り組むのに最もふさわしい組織であると考えられる。

以上

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