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メンタルヘルス対策は難しい?

「こうちさんぽメールマガジン」2009.8月号より

カウンセリング担当相談員 槇本 宏子

昨年、厚生労働省「メンタルヘルス対策支援センター」事業が立ち上がってから、事業所からの相談が増えています。その中で、殆どの事業所から「メンタルヘルスは難しいです!」という言葉が聞かれます。

私の考えている結論を先に申し上げると、メンタルヘルス対策は難しいというよりは、“手間がかかること”“時間がかかること”だと思います。

ここで、私が経験したある企業のメンタルヘルス対策をご紹介したいと思います。

職場と従業員を知る期間

私は、ある小売業企業で17年間保健師として従業員の健康管理をあずかっていました。「保健室」としての位置づけが会社の歴史としてありましたので、比較的すんなりと溶け込むことが出来、頭が痛いとか、お腹をこわした‥といった症状の応急対応と健診結果に基づいた健康管理を業務としていました。いわば、学校の「保健室」みたいなものです。この状態を3年ほど続けたときに「こんな状態を何十年もするのかな~」とふと疑問が湧いてきました。そんな時に、元高知大学医学部教授の甲田茂樹先生に出会い、「労働衛生の3管理(5管理)」を学び、自分の役割に目覚めることとなりました。

衛生管理体制を構築する期

早々職場巡視を開始し、来る日も来る日も、職場と、労働安全衛生法を照らし合わせ続けました。今となっては笑い話ですが、その当時、職場巡視という風土が無かったために、私が巡視中、声をかけた従業員から「声をかけられると、何だかどこか体の具合が悪いのではないかと誤解されるから近寄ってこないで!」と言われたことがあります。そんなことを言われながらも毎日巡視を続けていくと、巡視することが「当たり前」になってきます。「当たり前」になったときから序々に「よろず相談」が増えてきました。

一方、安全衛生委員会もリフレッシュし、法律で決められた審議事項に沿って開催し、労働と健康の調和の観点で助言を頂ける産業医をお招きして積極的に活動していただきました。その委員会でもぼつぼつと、メンタル不調についての話題がのぼるようになってきました。

メンタルヘルス対策下積み期

職場巡視での感触や、産業医の見立て等により、「当社でもメンタルヘルス対策にそろそろ取り掛かろう」という話しになり、安全衛生委員会で検討にかけたところ、却下されました。理由は「メンタルヘルスは周到な準備が必要だ」「我々素人はもっと勉強しないとわからない分野だ」「大事なことはわかっているけど、今は時期が早い」などでした。

そこで、産業医と頭をひねり実行したのが「心の健康診断」です。定期健康診断による「体の健康診断」の時期に合わせ実施しました。初回は抵抗感があると予想して無記名で実施し、2回目からは記名に変えました。この調査によって、健康管理をする側は、組織の心の健康度がわかりますし、従業員側からは「こんな項目も心の健康にかかわるんだ」といった教育の側面も生まれました。

2回目実施の頃には、社内の「メンタルヘルス」に関する抵抗感も薄らぎ、ようやく安全衛生委員会メンバーの賛同も得られるようになりました。

メンタルヘルス対策活動期

約3年間にも及ぶ下積み期を経て、安全衛生委員会で当然のように審議されるようになり、まず始めたのが、マニュアルの作成です。「事業場における心の健康づくり計画ワークショップ」に参加し、川上憲人先生から手引きを受け、完成したのが「○○社 心の健康づくりハンドブック」でした。完成した時は、自画自賛であったとしても、委員会メンバー全員が達成感で、顔が輝いていたのを今でも思い出します。

一方では、厚生労働省「メンタルヘルス指針モデル事業場」の選定も受け、外部の力を借りながら、メンタルヘルスシステム構築をしていきました。

そして、心の健康を崩した従業員が休職→復職の際は、このハンドブックを基に、本人・主治医・直属上司・人事・産業医・産業看護職と調整・連携を取り合い、復帰を支援しました。復職支援は15名以上させていただきましたが、100%職場復帰しました。これには、本人の努力が一番ですが、周囲の温かい理解とご支援があったからだと感謝しています。そして、トップの理解があり、組織的に動けたものと確信しております。

以上が、ある企業でのメンタルヘルス構築までの経過です。衛生管理構築期4年、メンタルヘルス対策準備期3年でおおよそ7~8年かかっていますが、衛生管理構築期が必要ない事業所では、もう少し早く活動期に移行できるのではないかと思います。

この体験を通して私が学んだポイントをあげると

  1. メンタルヘルスは特別なものではなく、衛生管理体制を基盤としたものの応用編である。
  2. 形だけを作成するのは早いかもしれないが、組織が熟成するまでに時間がかかる。
  3. 本人・主治医・上司・人事・産業医・産業看護職(衛生管理者)等の連携は必要不可欠である。
  4. トップの理解が、メンタルヘルス推進担当者の心の支えとなり、組織的取り組みには大変に重要である。
  5. 一つ一つの事例を大切にすること。本人も周囲も、産業保健スタッフや会社の対応を冷静に見ている。本人にある程度の納得が得られた場合は、別の体調不良者への声掛にもつながり、セルフケアの推進ができる。

であると感じています。

自分の体験事例だけからの話しとなりましたが、看護職を配置している企業は高知では少なく、殆どの企業が衛生管理者と兼務でおこなっていることと思います。よって、結果に”焦らず”大きな岩を崩すことに”あきらめず””しつこく”そして継続していくことが、いつかは「職場の心の健康」にあかりが灯ることに結びつくと信じています。お一人で抱えず、仲間をつくり話し合っていくことも支えになります。又、成功事例を皆で共有して、自らの学びにすることも大切です。そのようなお手伝いをさせていただければと思っております。

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