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作業環境管理のための工学的対策 その1

「こうちさんぽニュース」2009.10月号より

労働衛生工学担当相談員 中西 淳一

職場の衛生管理を進める際には、作業環境管理、作業管理および健康管理が重要となります。

これらのいわゆる三管理の内、作業環境管理の中で、有機溶剤や特定化学物質等を使用する有害業務に携わる作業者の有害物質に対するばく露を少なくするために、以下の8つの対策手法がよく用いられています。

  1. 有害化学物質の製造、使用の中止、有害性の少ない物質への転換
  2. 有害な生産工程、作業方法の改善による有害物質発散の防止
  3. 有害物質を取り扱う設備の密閉化と自動化
  4. 有害な生産工程の隔離と遠隔操作の採用
  5. 局所排気装置の設置
  6. プッシュプル型換気装置の設置
  7. 全体換気装置の設置
  8. 作業行動の改善による異常ばく露と不要な発散の防止

今回は、上記8つの対策手法の内、1から3についてご説明します。

有害化学物質の製造、使用の中止、有害性の少ない物質への転換

健康に極めて有害で、かつそれに替わって同じ使用目的を達成できる有害性のより少ない物質がある時には、その有害物質の使用を中止することが最も有効な対策です。労働安全衛生法第55条では、これに該当する物質として、黄りんマッチ、ベンジジン、ベンゼンゴムのり等の製造、使用等を禁止しています。

また、生産工程で使用される有害化学物質については、たとえ法で禁止されていなくても、自主的にそれらの物理的、化学的性質、有害性、品位および使用目的等を調査し、生産技術部門の担当者と協力して、有害性のより少ない物質への転換の可能性を十分検討し、可能であれば転換します。この場合たとえ材料としての性能が多少劣っていても、それを使いこなして目的を達成するような生産技術面での対応の可能性を追求することが大切です。

原材料の代用が見かけ上コスト高になる場合もありますが、職業性疾病発生に伴う人的、経済的損失を考慮すれば問題外ともいえるでしょう。

改善事例を7点挙げます。

  1. 粉体の原料は、粒子径の大きいものに替えます。
  2. 鋳物の仕上げ作業等でサンドブラストを使用していたものを、スチールショットに替えます。
  3. 有機合成用の溶媒としてベンゼンを使用していたものを、脂肪族化合物の揮発油系溶媒に替えます。
  4. 金属製品の脱脂のためにトリクロルエチレンを使用していたものを、界面活性剤系の脱脂剤に替えます。
  5. 接着剤の溶剤としてトルエンを使用していたものを、ゴム揮発油(工業ガソリン2号)に替えます。
  6. 芳香族含有量の多い塗料系シンナーを、ミネラルスピリット(工業ガソリン4号)に替えます。
  7. 精密機械部品の洗浄のためにトリクロルエチレンを使用していたものを、1,1,1-トリクロルエタン(メチルクロロホルム)に替えます。

この際、時々見られる誤りは、コストの低減または加工時間の減少等生産上の目的が優先し、従来よりも有害な原材料の代用が行われることです。たとえば、印刷物の乾燥時間を短縮するため、または接着剤の接着効果を良くするために、従来の原材料と異なる物質を使用して中毒事故を起こした例等です。

このように新しい原材料については、MSDS等を活用して、その有害性と予想される健康障害について事前に十分な配慮が必要となります。

有害な生産工程、作業方法の改善による有害物質発散の防止

生産工程や作業方法を一部変更したり、作業順序を入れ替えることによって有害物質を使わずに済ませたり、有害物質の発散を止めたり、減らすことができます。

改善事例を5点挙げます。

  1. 湿式工法の採用は、作業方法の変更の代表的なものです。粉じん作業の内、湿式にするか、または与湿することがその作業上支障が無い場合は極めて有効です。
  2. 溶剤を使用した噴霧塗装を、粉体塗装や電気泳動塗装等に替える。
  3. 線材の脱脂のために、トリクロルエチレンを使用して開放槽で温浴と蒸気洗浄を行っていたものを、密閉型の超音波洗浄装置に替えます。
  4. 機械部品の脱脂のため、開放槽内でトリクロルエチレンに浸漬して洗浄した後、機械部品を引き上げて乾燥していたものを、開放槽の上部を冷却パイプで囲むと、トリクロルエチレンの蒸発量を低減させることができます。さらに、洗浄槽を深くし、その分だけ冷却パイプで囲んだ面積を増やし、機械部品を引き上げる際にここで一旦10秒位止めてから引き上げることによって、トリクロルエチレンが機械部品に付着して出てくることをほとんど無くすことができ、さらにトリクロルエチレンの消費量も低減できます。
  5. 油脂を溶媒抽出した後の、残留溶媒を含む湿った食品かすをコンベヤーで隣接工場に運んで乾燥していたものを、密閉室内で乾燥して溶剤を回収してから運ぶ方法に改善することによって、溶剤の回収率が向上し、火災の危険性も減少します。

有害物質を取り扱う設備の密閉化と自動化

有害物質を取り扱う多くの生産工程は、有害物質の発散、飛散および拡散を防止するため、設備の全部または一部を完全に密閉することができます。

めっき作業の開放槽のように、少なくとも有害物質を発散する作業中だけでも密閉することができる場合があります。

密閉するには、銅、亜鉛引き鉄板、アルミニウム等金属製材料または合成樹脂板等を使用し、隙間の無いようにします。

加工すべき原料の送給や仕掛品の取り出し作業は、できるだけ機械化するか自動化し、内部の点検、清掃を行えるよう、密閉した設備の内部には必要に応じて照明用の電灯(防爆構造のもの)を設けるようにします。また、人が出入りできる扉を設ける等により密閉部を取り外し出来る構造にしておく必要もあります。

設備の構造上または作業上の理由で完全に密閉できない場合には、適度の排気を行って装置内をわずかに負圧にすることにより、隙間からの溶剤蒸気の漏洩を防止する対策が取られています。これを発展させたものが局所排気装置の囲い式フードです。

改善事例を2点挙げます。

  1. めっき槽、洗浄槽、混合機、粉砕機、篩分け機、ろ過機、タンブラー、ドライクリーニング機械、ベルトコンベアー、バケットコンベアー等は容易に密閉構造にできます。
  2. 化学反応用のベッセルは、密閉構造とし、攪拌機のシャフト貫通部にはグランドパッピングを施し、原料の供給、生成物の取り出しは配管または密閉式のコンベアー、スクリューフィーダー、空気輸送等の方法で行います。

これらの原則的な対策手法は、そのうちの1つだけに依存するよりも、複数の対策手法を併用することがより有効です。また、はじめに記したものほど有害物質に対するばく露の根本を絶つ有効な対策方法でありますから、まず上位の対策手法を検討することが大切です。

次回は、上記8つの対策手法の内、4以降についてご説明します。

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