お知らせ

防毒マスクを使用・保守管理する上での注意点について

情報誌「産業保健こうち」2007.9月号より

労働衛生工学相談員 中西淳一

はじめに

有機溶剤を取り扱う作業場では、保護具を着用しなくてもよい作業環境とするための改善を行うことが必要です。臨時の作業等で作業環境の改善効果が期待できない場合や、作業環境の改善を進めた上で作業者への有機溶剤のばく露をさらに少なくするために保護具を使用するのが正しい保護具の使い方と言えます。

有機溶剤を取り扱う作業の際に使用する保護具には、吸入による健康障害または急性中毒を防止するための有機ガス用の防毒マスクや送気マスク等の呼吸用保護具と、皮膚接触による吸収や皮膚障害を防止するための不浸透性の保護服、保護手袋および保護長靴等の労働衛生保護衣類があります。

前回は、有機ガス用に使用される防毒マスク用吸収缶の破過時間についての注意点をご紹介しました。今回は、防毒マスクを使用・保守管理する上での注意点についてご紹介します。

防毒マスク使用時の注意事項

  1. 防毒マスクは酸素濃度18%未満の場所では使用してはならない。
  2. 防毒マスクを着用しての作業は、通常より呼吸器系等に負担がかかるので、呼吸器系等に疾患のある作業者については、防毒マスクを着用しての作業が適当であるか否かについて産業医等に確認すること。
  3. 防毒マスクを着用する前には、その都度、着用者に防毒マスクの各部品の状態や取り付けが正しいことの点検を行わせること。また、予備の防毒マスクや吸収缶を用意しておくこと。未使用の吸収缶は、製造者が指定する保存期間内であって、包装が破損せず気密性が保たれていること。
  4. 防毒マスクの使用時間について、当該防毒マスクの取扱説明書や破過曲線図および製造者等への照会結果等に基づいて、有害物質の濃度や環境温度および湿度等の状況に対して余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定すること。吸収缶に添付されている使用時間記録カードに使用時間を必ず記入し、使用限度時間を超えて使用させないこと。
  5. 防毒マスク使用中に有害物質の臭気等を感知した場合は、ただちに着用状態の確認を行わせ、必要に応じて吸収缶を交換させること。
  6. 一度使用した吸収缶は、十分な除毒能力の残存が確認できるもののみを再使用することができる。ただし、メタノールや二硫化炭素等、破過時間が試験ガスよりも著しく短い有害物質に対して使用した吸収缶は再使用させないこと。
  7. 顔面と面体の接顔部の位置やしめひもの位置および締め方等を適切にさせること。しめひもは耳にかけず後頭部において固定させること。
  8. 防毒マスク着用後、空気の漏れ込みがないことをフィットチェッカー等を用いて確認させること。
  9. 次のような防毒マスクの着用は行わせないこと。
    • タオル等を当てた上から防毒マスクを着用すること。
    • 接顔部に「接顔メリヤス」等を使用すること。
    • 着用者のひげ、もみあげ、前髪等が接顔部に入り込んだり、排気弁の作動を妨害するような状態で使用すること。
  10. 防じんマスクの使用が義務付けられている業務において防毒マスクの使用が必要な場合には、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。吹き付け作業等のように防じんマスクの使用義務のない業務であっても、有機溶剤の蒸気と塗料の粒子等が混在している場合は、同様に、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。

防毒マスクの保守管理上の注意事項

  1. 予備の防毒マスクや吸収缶およびその他交換部品を常時備え付け、適時交換して使用できるようにすること。
  2. 使用後は有害物質や湿気の少ない場所で、各部品の状況と吸収缶の固定不良や破損等の状況を点検し、手入れを行うこと。取扱説明書に特別な手入れ方法が記載されている場合はその方法に従うこと。吸収缶は、充填材の吸湿または乾燥等により能力が低下するものが多いので、使用直前まで開封しないこと。
  3. 次のいずれかの場合は、防毒マスクの部品を交換または防毒マスクを廃棄すること。
    • 吸収缶が破損もしくは著しい変形が認められた場合、またはあらかじめ設定した使用限度時間に達した場合。
    • 吸気弁、面体、排気弁等が破損、き裂もしくは著しい変形を生じた場合、または粘着性が認められた場合。
    • しめひもが破損した場合、または弾性が失われ、伸縮不良の状態が認められた場合。
  4. 点検後は直射日光が当たらない湿気の少ない清潔な場所に専用の保管場所を設け、管理状況が容易に確認できるようにすること。保管の際は、積み重ねや折り曲げ等による破損等の異常を生じないようにすること。
  5. なお、一度使用した吸収缶を保管すると、一度吸着された有害物質が脱着して破過時間が破過曲線より推定した時間より著しく短くなる場合があるので注意すること。
  6. 使用済みの吸収缶を廃棄する際は、吸収剤に付着した有害物質が遊離したり、吸着剤が飛散しないように、容器または袋に詰めた状態で廃棄すること。

最後に

事業者は、衛生管理者、作業主任者等の労働衛生に関する知識と経験を有する者のうちから、各作業場ごとに防毒マスクを管理する保護具着用管理責任者を指名し、防毒マスクの適正な保守管理に当たらせると共に、作業に適した防毒マスクを選択し、防毒マスクを着用する労働者に対し、当該防毒マスクの取扱説明書やガイドブックおよびパンフレット等に基づき、防毒マスクの適正な装着方法と使用方法および顔面と面体の密着性の確認方法について充分な教育や訓練を行うことが必要です。

各作業場所に応じた防毒マスクの選択方法や着用訓練等につきましては、お気軽に当センターにご相談下さい。

以上

 

ご相談・ご要望を受け付けています。

ご利用時間:午前8時30分~午後5時15分(土・日曜日・祝祭日、年末年始除く)

PAGE TOP