お知らせ

事業者から見た健康診断の事後措置

産業保健情報誌「よさこい」2005.1月号より

高知健診クリニック院長 坪崎 英治

現在日本には人間ドックを初めとして多種多様な健康診断があり、健康で元気な社会生活のためにはこれらを活用することが必要であり、強く望まれます。この中で国が労働者の健康を守るため費用を大部分補助してまで実施を命じている健康診断があります。注意を要するのはこれらの健診は単に実施をしてしまえばそれで終わりという性格のものではなく、事後になかなか複雑な処理を事業者に強いております。ここに出来るだけ判かりやすく説明してみたいと思います。なお今回は有害業務従事者に対する特殊健康診断に関する説明は別の機会にゆずり、一般健康診断を実施したあとの事後処理について、事業者の責務を説明してゆきます。

一般健康診断の種類

健康診断としては四種の主なものと、これ以外に結核健康診断と給食従業員の検便にかかわるものがあります。いずれも労働安全衛生法(以下「法」という。)で定められており、強制、罰則つきです。

定期健康診断:労働者は一年に一回かならず受ける必要があります。平成11年には検査項目が従来より増えました。さらに13年には二次健康診断等給付も設けられました。

雇入時健康診断:内容は定期健康診断とほぼ共通です。

配置換え時の健康診断:有害業務に配置換えのとき実施し、内容は定期と同じです。

海外派遣労働者の健康診断:6ヶ月以上派遣する時には、その前後に定期項目と医師が必要と判断する追加項目を検査します。

健康診断の目的

健康診断の目的は当然のことと言いながら受診者本人の健康状態を調べ、病気の早期発見早期治療をおこなうとともに、本人の生活状況、家族歴、既病歴などから今後発病しやすい病気の危険因子を見付け発症予防の指導ならびに経過観察を行うことにあります。また健診が職場単位で行われますから、作業環境と関連のありそうな共通した健康障害が出ていないか検討することも大事だとおもいます。

ともかく平成8年頃から次々と出されるあまたの労働衛生施策と、その実施状況に関する労働基準局の監督指導の強化ぶりは従来の概念の一掃を迫るほどであります。この社会的背景には勿論世界に類例のない速さで進行するわが国の少子高齢化社会があり、その当然の結果として就労可能年齢の人口の著しい減少にともなう高齢労働者の増加にあります。人は加齢とともに多病になりますが、最近の健康診断の結果では平均でも四割を超す労働者になんらかの異常所見が認められています。労働者の健康を守り、労働力の損耗を防ぐことはいまや最も重要な課題となっています。

健康診断の事後措置:第一段階

事業者は所属する労働者に対し健康診断を実施し、健診を実施した医師は項目ごとにまずそれぞれ無所見か有所見か判断します。ついで有所見の場合には病名診断をし、かつそれが医療上の措置不要つまり放置可か、要観察か、要医療かの三種の診断区分をつけ、さらに必要な場合、生活改善に関する指導や紹介状も添付し報告書を作成します。事業者は受け取ったのち、速やかに労働者本人に通知しなければなりません。また精密検査や治療を必要と判定された者に対し、スムーズに医療機関を受診できるように業務上での配慮や支援を与えねばなりません。さらに50人以上の規模の企業は健康診断の結果を労働基準監督署に報告する必要があります。さてここまでが第一段階で、従来はこれで良かったのです。

健康診断の事後措置:第二段階

さて、第一段階で要観察あるいは要医療と診断区分された労働者をそのままこれまでと同じように働いてもらって良いのかが問題になります。今後の就業形態をどうするかについてはこれまではほぼ事業者の判断にゆだねられていました。

新しい改正(法66-4)では選任している産業医による医学上の見地からなる意見を聴取せねばならないことになっています。産業医は健康診断のデータを基に、本人の職場における労働の実態も勘案して次の就業区分のどれにあたるかを判断します。即ち(1)通常勤務を続けてよい(2)就業制限を要す(3)要休業の三種です。

(2)の就業制限は例えば残業時間の制限、宿日直や心身に負担の大きい仕事の制限、配置転換などが内容になります。

事業者は産業医の意見をもとに、あるいは連携をして、必ず当の労働者の考えも聴いて決定しなければなりません。なぜならば就業制限などにより給与等に不利益が生じる場合があるからです。(法66-5)

このようにしてやっと就業上の措置すなわち上記の三区分のどれにするかが決定されるわけです。この決定は本人には勿論のこと職場の管理監督者や産業医にも周知させねばなりません。

産業医がいない場合には

これまで述べてきましたように、健康診断の事後措置には産業医の行う専門医としての意見が欠かせません。また産業医は職場の作業管理と作業環境管理に関してもあるいは職場の衛生委員会にも医学的見地から指導助言を述べることになっています。

50人以上の規模の企業職場は必ず産業医を選任することが義務付けられています。50人未満の産業医を選任していない職場では地域産業保健センターに依頼して所属産業医のサービスを受けることができます。

高知県では高知市および安芸市と須崎市と中村市にあります。また保健師も所属していますので健康診断のあと保健指導が必要と判断された労働者に対して保健指導を依頼することができます。

終わりに

現今ではまだ不況の影響も残っていて、リストラなどという言葉もまだ生々しい響きがありますが、このようなことはほんの一時期の現象にすぎません。人口の年齢別構造をみれば一大労働力不足の時代はもう目の前にきています。はやくも2007年にはいわゆる団塊といわれた世代が60歳を迎えることになりますが、この年15歳を迎える世代は約三分の二しかいません。改めて述べますが労働者の健康を守り、労働力の損耗を防ぐことが今ほど切実に必要な時はありません。

以上

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