有機ガス用吸収缶の破過時間について

産業保健情報誌「よさこい」2007.1月号より

高知産業保健推進センター相談員
中西 淳一

はじめに

作業環境測定士として有機溶剤を取り扱う作業場所の作業環境測定にお伺いした際に、事業場の労働衛生管理者の方に、「防毒マスクに付いている有機ガス用吸収缶について使用時間の記録はありますか。吸収缶の交換はどのようにしていますか。」とお尋ねすることがあります。ほとんどの事業場では、「そのような記録はありません。」、「吸収缶は1日で交換しています。」、「1週間で交換しています。」、「臭気がしたら交換しています。」等まちまちで、吸収缶を交換する根拠はなんとなくといったお答えが大半でした。
防毒マスクの選択、使用等について〔平成17年2月17日付け基発第0207007号 厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長あて〕には、防毒マスクの使用に当たっての留意事項として10項目が記されていますが、その中で、「防毒マスクの使用時間について、当該防毒マスクの取扱説明書等及び破過曲線図、製造者等への照会結果等に基づいて、作業場所における空気中に存在する有害物質の濃度並びに作業場所における温度及び湿度に対して余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定し、その設定時間を限度に防毒マスクを使用させること。また、防毒マスク及び防毒マスク用吸収缶に添付されている使用時間記録カードには、使用した時間を必ず記録させ、使用限度時間を超えて使用させないこと。なお、従来から行われているところの、防毒マスクの使用中に臭気等を感知した場合を使用限度時間の到来として吸収缶の交換時期とする方法は、有害物質の臭気等を感知できる濃度がばく露限界濃度より著しく小さい物質に限り行っても差し支えない。」とされています。
そこで、今回は、相対破過比(RBT)を用いた有機ガス用吸収缶の破過時間の求め方をご紹介します。

破過曲線図と相対破過比(RBT)

破過曲線図

吸収缶が除毒能力を喪失するまでの時間を破過時間といい、破過時間とガス濃度の関係を図にしたものを破過曲線図といいます。

有機ガス用吸収缶には、試験ガスとしてシクロヘキサンを用いた除毒能力試験結果として、図-1のような破過曲線図が添付されています。

図-1からは、例えば、シクロヘキサンの濃度が700ppmの場合には破過時間が100分であること、200ppmの場合には300分であることが解りますが、実際に取り扱っている有機溶剤がシクロヘキサンと異なる場合の破過時間は解りません。

そこで、各有機溶剤の破過時間とシクロヘキサンの破過時間の比を求めた相対破過比(RBT)の出番となるわけです。

各有機溶剤の相対破過比(RBT)は、次式により求められます。

各有機溶剤のRBT = ある有機溶剤の破過時間


シクロヘキサンの破過時間

表-1にシクロヘキサンに対する有機溶剤の相対破過比(RBT)の一例を示します。

【表-1 シクロヘキサンに対する有機溶剤の相対破過比(RBT)】

有機溶剤 RBT 有機溶剤 RBT
メタノール 0.02 酢酸メチル 0.6
イソプロピルアルコール 1.2 酢酸エチル 1.0
1-ブタノール 1.8 酢酸ブチル 1.3
アセトン 0.5 トルエン 1.4
メチルエチルケトン 1.2 スチレン 1.7
メチルイソブチルケトン 1.4 二硫化炭素 0.4

表-1に示したRBTの値は、有機ガス用吸収缶の製造メーカーにより異なる場合がありますので、詳細な値は、自社でご使用になっている有機ガス用吸収缶の製造元あるいは購入先にお問い合わせ下さい。

破過時間の予測

破過時間には、有機溶剤の種類や作業場所の温度・湿度、それに作業者個人の呼吸量等が複雑に絡み合っているため、実際の吸収缶の破過時間を正確に予測することは容易ではありません。
しかし、有機溶剤を取り扱っている作業者が、ばく露している有機溶剤を確認し、シクロヘキサンの破過曲線図を用いて環境濃度から求めた破過時間にRBTを乗じることにより、実際に取り扱っている有機溶剤に対する破過時間を予測することができます。

(例-1)

作業環境測定の結果、アセトン濃度が30ppmである作業場の場合の破過時間を計算してみましょう。

  1. シクロヘキサンの破過曲線図より、シクロヘキサン濃度30ppmの場合の破過時間を求めるべきですが、読み取り出来ませんので、低濃度側で読み取り易い200ppmの場合の破過時間を求めますと、300分です。
  2. これにシクロヘキサンに対するアセトンのRBTである0.5を乗じて、アセトン濃度200ppmの場合の破過時間を求めます。
    300分×0.5=150分
  3. アセトン濃度が30ppmの場合の破過時間をA分とすると、
    200ppm×150分=30ppm×A分
    より、A=1000分となります。

(例-2)

作業環境測定の結果、酢酸メチル濃度が20ppm、トルエン濃度が30ppmという混合有機溶剤を取り扱っている作業場の場合の破過時間を計算してみましょう。

  1. まず、シクロヘキサンに対する酢酸メチルとトルエンのRBTを比較します。
    酢酸メチルのRBTは0.6
    トルエンのRBTは1.4
    このような場合は、RBTの低い方の酢酸メチル濃度が20+30=50ppmとして、安全サイドに立った破過時間を計算します。
  2. 例-1と同様に、シクロヘキサンの破過曲線図より、シクロヘキサン濃度50ppmの場合の破過時間を求めるべきですが、読み取り出来ませんので、低濃度側で読み取り易い200ppmの場合の破過時間を求めますと、300分です。
  3. これにシクロヘキサンに対する酢酸メチルのRBTである0.6を乗じて、酢酸メチル濃度200ppmの場合の破過時間を求めます。
    300分×0.6=180分
  4. 酢酸メチル濃度が50ppmの場合の破過時間をB分とすると、
    200ppm×180分=50ppm×B分より、B=720分となります。
  5. この場合、酢酸メチル濃度20ppm単独の場合の破過時間を1800分とし、トルエン濃度30ppm単独の場合の破過時間を4800分として、その平均から酢酸メチル濃度が20ppm、トルエン濃度が30ppmという混合有機溶剤の破過時間を3300分とは決して計算しないようにして下さい。また、分子量の小さい物質の中には、破過時間が特に短い物質がありますので注意が必要です。

最後に

吸収缶

RBTを用いて破過時間を予測して吸収缶を使用しても、吸収缶の保管状態が適切でなければ役に立ちません。吸収缶については、吸収缶に充填されている活性炭等は吸湿または乾燥により能力が低下するものが多いため、使用直前まで開封しないことや、使用後は上栓及び下栓を閉めて保管すること、栓がないものにあっては密封出来る容器または袋に入れて保管することが必要です。

以上

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